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2007年1月15日 (月)

中岡望『アメリカ保守革命』

 昨年のアメリカ中間選挙の結果を受け、ブッシュ政権へのネオコンの影響力は低下した。9・11同時多発テロからイラク戦争に至るまでマスメディアにも盛んに登場したネオコン──その思想的な核心がどこにあるのか、実は私はいまだにピンときていない。政策の誤りをあげつらうのはたやすい。しかし、彼らを駆り立てた動因が何であったのか、そこをしっかりと押さえておかなければ建設的な批判はできない。

 そうした中、本書は戦後アメリカ政治史の文脈におけるネオコンも含めた保守主義の系譜が整理されており、一つの見取り図を得たという点で有益であった。

 一般的に保守主義の思想的な特徴としては次の点が指摘される。第一に、神の前において人間の賢しらを戒め、進歩主義的な観念論を偽りごととして批判する。それは、戦後政治においては反共・反リベラルとして特徴付けられる。第二に、政府機能は縮小させ、かわって各人の家族や共同体への帰属意識を重視する。第三に、経済的な自由競争、自己責任原則を主張する。ただし、これらが一律に主張されるわけではなく、宗教的倫理重視の伝統主義者と経済的自由重視のリバタリアンとが絡み合っている。

 アメリカでは、F・D・ローズヴェルト政権のいわゆるニューディール政策によってリベラルが政治の主流となりつつあった。そうした趨勢に対して戦後、保守主義思想は自前の立場を主張し始める。いわゆる保守主義革命は三段階に分けられ、第一段階は1950年代、理論構築の時期。第二段階は1960年代半ばからで、保守主義者は共和党に入って政治活動を開始した。そして、1981年に誕生したレーガン政権への参加が第三段階となる。

 しかし、レーガン政権への参加に伴う人事抗争、さらにはソ連という共通の敵が消滅したことにより、保守主義者内部の争いが表面化した。具体的には、キリスト教右派などポピュリスティックな人々を中心とするペイリオコン(Paleo-Conservatism=旧保守)と、インテリ中心のネオコン(Neo-Conservatism=新保守)とに分裂したのである。

 両者は次の点で相違する。第一に、ペイリオコンとは異なり、ネオコンは宗教的倫理観を最優先課題とは考えない。たとえば、ネオコンの中に同性愛者がいたらしいが問題にもならなかったという。ペイリオコンには生まれながらの伝統主義者が多いのに対し、ネオコンには左翼からの転向者が多いという出自の違いもある。

 第二に、ペイリオコンの主張が極めて情緒的であるのに対し、ネオコンは政策科学的な理論武装をもとに論陣を張った。たとえば、ペイリオコンは福祉国家を悪しきものとして一方的に排斥するだけである。しかし、ネオコンは統計データを分析して比較考量し、福祉政策によって依存者が増えるというマイナスよりも、福祉政策を撤廃したときの生活困窮者の問題の方が深刻であるならば、福祉政策路線を継続させるというリアルな対応を取る。こうした政策ブレーンとしての有用性がレーガン政権以降ネオコンが重用された理由である。

 第三に、国際政治への対応として、ペイリオコンは伝統的な孤立主義を主張する。共産主義は倒れたのだからこれ以上アメリカは世界にしゃしゃり出てゆく必要はない。これに対してネオコンは、国際秩序の形成にアメリカは責任を持つべきであり、そのためには軍事介入も躊躇してはならないと考えている。

 ネオコンにはユダヤ人やカトリックが多く、その世界観には一神教的・十字軍的な使命感が垣間見られると指摘される。イラク戦争の理由を石油利権等の分かりやすいファクターで説明しようとする議論がたまに見られるが、そんな単純な問題ではない。こうした思想的な側面からさらに掘り下げた説明を私は最も期待していたのだが、紙幅の制限のためでもあろう、本書ではなかなか難しいようだ。

 アーヴィング・クリストル(Irving Kristol)がネオコンの理論的なキーパーソンとなるらしい。しかし、彼も含めてネオコンのスタンスを一貫的に主張した理論書はないという。ちなみに息子のウィリアム・クリストル(William Kristol)はホワイトハウス入りして政策立案で大きな役割を果たした。

 独善的な理念の暴走を戒めるというのが保守主義思想の真髄であったはずだ。そこから考えると、ネオコンというのは、まとっている衣は保守主義であっても、根本的にどこか異質な部分がある。その異質さを浮き彫りにした研究があれば是非とも読んでみたい。

【取り上げた本】

中岡望『アメリカ保守革命』(中公新書ラクレ、2004年)

(2007年1月3日記)

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コメント

『アメリカ保守革命』と聞くと、かつて『新・保守革命』という本があったのを思い出す。
著者は渡辺美智雄、柿沢弘治。懐かしい。
今でも、ブックオフの書棚などでたまに見かける。
むろん、105円均一コーナーで、だ。

投稿: | 2007年1月21日 (日) 11時35分

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