アトランダムに3冊
読んだ本について書きとめたメモをいちいち整理してなかったのでバラバラです。たまたま見つけた去年のメモを切り貼りしました。従って、何の脈絡もありません。
◆池内恵『書物の運命』(文藝春秋、2006年)
気鋭のアラブ研究者が雑誌や新聞に執筆した書評・論考をまとめた一冊。専門分野以外の書評もしっかりしているが、専門の中東問題についていくつか興味深い指摘があった。「中東」幻想は、マルクス主義など従来の概念枠組みが崩れて判断基準を失ってしまった一部の知識人にとって代替的な拠り所となっている。従って、彼らの発言は、その論じ方の裏を読むと、中東問題そのものについて論じているというよりも、むしろ日本内部での論争枠組みを中東問題に投影しているに過ぎないこと。また、「近代化論」や「原理主義」という用語は、反米意識の裏返しとして中東肯定がまずありきという風潮の中、有効な認識ツールとして使えなくなっていることなど、アラブ社会の内面を熟知した若手ならではのリアルな認識を踏まえた議論には説得力がある。
◆小島毅『近代日本の陽明学』(講談社選書メチエ、2006年)
陽明学・水戸学を軸として幕末以降、近代日本の思想史を読み直そうと本書は試みている。日本思想としての陽明学について知りたいと思って書店に行っても安岡正篤の本か専門家の研究書しか見当たらない。アカデミックで手頃な類書がなかったので興味を持って手に取ったのだが、本書には感心できなかった。語り口は軽妙といえば確かにそうも言えるが、一方的な断定が目立ち、悪ふざけが過ぎる。内容的な判断は保留して、思想史を勉強する事項整理のためと割り切って通読する分には役立つと思う。
◆富岡多恵子『釋迢空ノート』(岩波現代文庫、2006年)
折口信夫という人の残した足跡はまことに大きく、彼の全体像を把握するのはなかなか骨が折れる。私は以前、民俗学に興味を持っていたことがあり、当然ながら折口のテクストにも多少は触れたことがある。しかし、彼の民俗学や古代研究には、歌人としての折口のもう一つの顔が分かちがたく絡まっており、詩的な感性に乏しい私にとって、魅力を感じつつ、しかし私が入り込むような世界ではないのだろうという引け目を感じたことが記憶に残っている。本書では、折口の家庭環境における父への軽蔑、人からははばかれる同性愛、大阪という町の中で彼の繊細さは浮き上がり、むしろ気質的な暗さを内向させてしまったことなどが描かれる。富岡が詩人としての感性を武器に折口の情緒的な内面まで、跳ね返されながらもなおかつ踏み込みもうとする丁々発止の切り結びには迫力がある。
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