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2007年1月 7日 (日)

最近の小説を3冊

P1040016  年末年始の一週間近く、インフルエンザで寝込んでいました。ボーっとベッドに転がっていると実に退屈。小説を買い込んだままほったらかしにしてあるのが結構たまっているのを思い出して、この機会に引っ張り出して読みました。

◆柴崎友香『その街の今は』(新潮社、2006年)

 夏の暑さがまだしつこく残る九月の大阪。歌ちゃんは会社が倒産したため、行きつけだった下町のカフェでバイトをしているが、次の仕事や男友達のことで気持がゆれる落ち着かない日々を過ごしている。彼女は大阪の昔の写真が好きだ。「自分が今歩いてるここを、昔も歩いてた人がおるってことを実感したいねん。どんな人が、ここの道を歩いてたんか、知りたいって言うたらええんかな? 自分がいるとこと、写真の中のそこがつながってるって言うか……。」昔の人の足跡もしっかりと包み込みながら街は少しずつ容貌を変えていく。そうした街の姿に、彼女自身新しい人生へと踏み出す戸惑いを重ね合わせる。格別に強い印象はないが、生まれ育った街への若い女性ならではの愛着が軽やかに描かれており好感を持った。

◆森絵都『いつかパラソルの下で』(角川書店、2005年)

 人はそれぞれにコンプレックスなり、トラウマなり、生きていく上でどことなくやりづらいというわだかまりを抱えている。その苛立ちから周囲とぶつかってしまう。そして、それは得てして誰かのせいにしやすい。たとえば、親のせい、家庭のせい。しかし、ある時、そうしたかたくななこだわりがふっきれ、ようやく自身の抱えるものを直視し、受け流せるようになる瞬間がある。この作品は、そうした瞬間をサラッと涼やかなタッチで描いており、読後感はなかなか快かった。

◆梨木香歩『家守綺譚』(新潮文庫、2006年)

 舞台はおそらく明治時代。著述をなりわいとする学士・綿貫征四郎は、学生時代に事故死した親友・高堂の実家で縁あって家守をしている。死んだはずの高堂が掛け軸の中から舟をこいで現れたのを皮切りに、不思議なことが次々と起こる。驚きつつも、目の前の出来事を無理やり納得させられてしまう綿貫の戸惑いがどこか可笑しい。季節の移り行きに応じ、草花にまつわるテーマがほのめかされる風雅な連作怪異譚。品の良いレトロ趣味を活かした作品集で、是非一読をお勧めしたい。

(2007年1月3日記)

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