ノンフィクションを2冊
オウム真理教をどのように捉えればよいのか、なかなか糸口が見えない。そうした中、本書は麻原彰晃という人物のたどった軌跡を丹念な取材によって描き出し、彼の抱えたコンプレックスにまで踏み込もうとしたノンフィクションである。
内容的には興味深いのだが不消化感が否めない。オウム真理教を考える上で、オカルトの話題が避けられないのはわかる。しかし、本書の後半、日猶同祖論で有名な酒井勝軍(さかい・かつとき)に麻原が関心を持ち、酒井が探し求めていたという“ヒヒイロカネ”をオウムもまた探し求めていたという話題に集中してしまうのは明らかに脱線だ。
“ヒヒイロカネ”の研究に生涯をかけた市井の人物がいたことには、オウムという文脈を離れたところで興味はわく。だが、麻原及びオウム真理教に集った人々の精神形成をどのような社会的背景の下で位置づけるかという問題関心で読もうとする人には不満が残るだろう。
◆奥野修司『心にナイフをしのばせて』(文藝春秋、2006年)
神戸市須磨区のいわゆる「酒鬼薔薇」事件は現代社会を映し出す鏡であるかのように位置づけられ、いまだに議論が絶えない。ところが、これよりも二十年以上前に似たような事件があったことは一部では知られていたものの、格別な注目は引いてこなかった。本書はその昔の事件の関係者に肉薄し、少年法の問題を浮き彫りにしようと試みる。
犯人が殺人を犯したにも拘わらず法的に保護され、こともあろうに弁護士になっていたという事実は衝撃的である。それ以上に私は、遺族の長年にわたる葛藤に胸を打たれた。殺した側は社会的地位を築き上げて優雅な生活を送る。対して遺族は、殺された少年の記憶を抱えて生活も希望も何もかもがズダズダに引き裂かれたまま。二重の不条理に耐え忍ばねばならない姿には本当に言葉がない。
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コメント
この項とは関係ないが、映画『ダーウィンの悪夢』について。
今発売中の雑誌『論座』にこの映画にまつわる論考が載っている。
筆者はたしか、早稲田の教授か何かを務めている。
ご一読あれ。
投稿: みつぼ | 2007年1月13日 (土) 10時51分