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2006年12月18日 (月)

「ホテル・ルワンダ」

 今年の2月頃に観た「ホテル・ルワンダ」についてのメモを掲載します。

【ストーリー】

 多数派フツ族と少数派ツチ族との深刻な内戦や、フツ族出身の独裁者ハビャリマナ大統領の圧制で疲弊しきったルワンダ。国内外からの圧力に加え、ツチ族亡命者の結成したルワンダ愛国戦線の反攻に直面し、1994年、大統領は和平協定を結ぶことにようやく同意した。

 ルワンダの首都キガリにあるベルギー資本の高級ホテル・ミルコリンホテルでは、国連関係者や報道陣が集まって祝杯をあげている。その中で、マネージャーのポール・ルセサバギナ(ドン・チードル)は忙しく立ち働いていた。

 そこへ妻の兄が不安げな顔をしてやってきた。

「フツ族民兵がツチ族虐殺の準備をしているという情報がある。政府は急進派民兵をもはや統制できない。君はフツ族だから大丈夫だが、私はツチ族だ。君には欧米人にコネがある。早く国外脱出したいんだ。」

「和平協定が結ばれるんだぞ。心配するな。」

 ポールは義兄をなだめて帰した。

 その晩、仕事が遅くなって車で帰る道すがら、どうも町の様子がおかしい。自宅に着くと、ツチ族の隣人たちが中に集まって息をひそめていた。

 ハビャリマナ大統領は和平協定の調印式場に向かう途中、乗っていたヘリコプターが何ものかによって撃墜され、それを合図にフツ族民兵が一斉に動き始めたのである。ラジオからは不吉な怒鳴り声が繰り返し流れていた。──「ゴキブリを駆除しろ、ツチ族を殺せ!」

 ポールはこうした事態に備えて高級ホテルのマネージャーとして各方面に培ってきた人脈を使い、ツチ族出身の妻だけは守り抜くつもりでいた。しかし、行きがかり上、救いを求めて集まってきた他のツチ族の人々をも救わねばならない羽目になる。

 ミルコリンホテルは外国資本であるため、民兵もおいそれとは手が出せない。しかし、ルワンダ政府は事実上崩壊した。情勢の悪化を受けて国連平和維持軍も一部を残して撤退しつつある。民兵がなだれ込んでくるのも時間の問題だ。あとは、ポールの機転で時間稼ぎをするしかない──。

【見捨てられたルワンダ】

 死体が転がっているのが当たり前な光景は、映画だとわかってはいても目を背けたくなるおぞましさだ。しかし、映画の中で交わされる会話を聞くと、これでも残虐描写は抑えているほうなのだろう。

 この大虐殺では百万人以上が殺されたと言われている。部族の従来からの風習やかつての植民地支配の負の遺産など複雑な背景が横たわっているそうだが、詳細はフィリップ・ゴーレイヴィッチ(柳下毅一郎訳)『ジェノサイドの丘』(上下、WAVE出版、2003)に譲る。

 映画の中盤、国連平和維持軍撤退の決定を聞いた指揮官のオリバー大佐(ニック・ノルティ)がヤケ酒をあおりながらポールに向かって次のように言う場面がある。

「俺につばを吐き掛けろ。超大国はルワンダを見捨てるつもりだ。なぜだか分かるか? 君たちは白人ではないからだ。」

 この映画では触れられていないが、超大国の筆頭・アメリカにも事情はあった。1993年、当時のガリ国連事務総長の提唱する積極的平和創造の方針に基づき、アメリカ軍はソマリア内戦に軍事介入した。しかし、多数の死傷者を出して撤退せざるを得なくなるという苦い経験をひきずる結果になってしまった(詳細な経緯は映画「ブラックホーク・ダウン」(2002年)がリアルに描写している)。

 これは個別の国益を離れた純粋な人道目的の軍事介入として初めてのケースであったが、失敗に終わってしまったため、「国益に関係ないのにアメリカの若者の血を流すわけにはいかない」という国内世論が根深くなり、アメリカ政府は身動きが取れなくなってしまった。アメリカが動かなければ、当然、他の国も動かない。

 アメリカの国内世論という点で、高木徹『戦争広告代理店』が一つの問題点を描き出している。なぜアメリカの国内世論は、アフリカの難民は見捨てたのに、ボスニア内戦には大きく関心を示したのか? カギとなるのは、世界中に配信された一枚の報道写真。収容所(実際は違ったのだが)の鉄条網の中に収容されているのが、黒人ではなくスラブ系の白人だったからだ。アフリカの黒人が何万と殺されてもたいした問題とはならないが、白人が虐待されているというイメージが広がると過敏なまでに反応する。

 国際世論において見捨てられかねない“マイノリティー”(人口的には決して少数派ではないのだが)に目を向けるよう注意を喚起するものとして「ホテル・ルワンダ」の意義は大きい。

 NPOを中心とした草の根運動の努力の結果として、この映画の日本上映は実現したという。実際に出かけてみると、立ち見がでるほどの盛況であった。口コミでこれだけ認知度が広がったという点でも非常に興味深い。

 映画の中で、虐殺シーンを撮影したBBCのカメラマンが「これをニュースで流しても、“あら怖いわね”と言って、ディナーを続けるだけさ」と自嘲気味に言うシーンがあった。私自身もその類型に入ることを自覚しつつ、この稿を終える。

【データ】

原題:Hotel Rwanda
監督:テリー・ジョージ
2004年/南アフリカ・イギリス・イタリア/122分/カラー
配給:メディア・スーツ、インターフィルム
協力:『ホテル・ルワンダ』日本公開を応援する会、NPO法人ピースビルダーズ・カンパニー、ジェネオン・エンタテイメント
後援:ルワンダ大使館、社団法人アムネスティ・インターナショナル日本

(2006年2月、シアターN渋谷にて)

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コメント

ルワンダならぬ、ナイジェリアかエチオピアに行こうと考えていたのだが、6日間以上の休みが取れそうにないのと、航空券がやや高いので、ほぼ断念したところだ。

投稿: みつぼ | 2006年12月19日 (火) 20時22分

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