2012年5月15日 (火)

橋本健二『階級都市──格差が街を侵食する』、ジャック・ドンズロ『都市が壊れるとき──郊外の危機に対応できるのはどのような政治か』

 都市をめぐる論考を続けて2冊読んでいたら、両方ともジェントリフィケーション(gentrification)というキーワードが出てきた。都市社会学の用語らしいが、不勉強にして初めて知った。直訳すると「富裕地域化」ということらしい。都市中心部の下町で産業が衰退する一方、再開発を意図して閉鎖した工場の跡地などに高所得者向け住宅や商業施設が建設される。アクセスの利便性や下町情緒を求めた富裕層が下町に居住すると、地価高騰、さらには地域特性喪失といった形で地元民は居づらくなり、留まったとしても分極化した経済的格差が共存した階級構成となってしまう問題である。具体的には、下町に高級マンションがそび...

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2012年5月11日 (金)

台湾旅行⑥(5月6日、旗山/5月7日、帰国)

(承前)  美濃は早めに切り上げ、高雄方面へ戻るバスに乗る。15分ほどで旗山に着いた。こちらの方が美濃よりも街の規模は大きい。バスターミナルには高雄・左営ばかりでなく鳳山や台南など各方面へのバスが発着しており、この近辺の交通拠点となっている様子だ。ただし、位置が町外れにあって最初は方向感覚がつかみづらく、ちょっと道に迷いそうになった。写真は中心街へと向かう途中の通り。  旗山はもともとバナナの産地として知られた街で、収穫されたバナナを運ぶ鉄道がここまで引かれていた。すでに廃線となっているのだが、駅舎が再建されて観光スポットになっている(写真、写真)。台湾ではこうしたケースはよく見かける。中はち...

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2012年5月10日 (木)

台湾旅行⑤(5月6日、美濃)

(承前)  5月6日、幸いなことに、この日も晴れだった。高雄からバスで1時間半ほど行った山間にある客家の村、美濃へ行く。  美濃と書いて、中国語ではメイノン(mei3 nong2)と発音する。もともとは瀰濃と書かれたらしいが、その発音が「ミノ」という日本語的な語感に近かったため日本統治期に美濃と改名され、そのまま定着したのだという。高雄市と高雄県とが合併したのを受けて、現在は高雄市美濃区となっている。  美濃は山間の平地が開拓された村で、近づいていくときには青々とした田んぼの中をバスに揺られながら横切ることになる。バナナや椰子の木が点在し、そばまで山並みが迫っている。のどかな雰囲気だ。美濃は米...

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2012年5月 9日 (水)

台湾旅行④(5月5日、東港・大鵬湾)

(承前)  東港に戻る連絡船には午後1時半頃に乗船。帰りの便は空いているなあと思いつつ、早めに乗船して仮眠をとっていたら、時間を追うに従って乗船客は増えてきて(特に合宿帰りと思しき大学生風の団体客)、ほぼ満席状態になった。  東港は漁港の町である。マグロの水揚げが有名で、ここから日本へも輸出されているらしい。連絡船発着所から外へ出ると、通りは人や車がごった返し、警官が交通整理をしている。マグロ市が催されており、その会場へと車が次々と吸い込まれていく。行楽がてら買出しに来た人たちのようだ。私がマグロを買っても仕方ないので、その手前にある市場をブラブラひやかす。もちろん魚介類が中心。マグロをその場...

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台湾旅行③(5月5日、小琉球)

(承前)  島へ渡った。  台湾南部・屏東縣の沖合に浮かぶ離島、小琉球である。かつて中国の史書では台湾や沖縄も含めてこの辺りの島々は「琉球」と呼ばれており、その名前が残っている。行政上の名称は屏東縣琉球郷だが、沖縄と区別するため「小琉球」とも呼ばれる。  小琉球への連絡船は東港という漁港から発着している。かつてここまで敷かれていた鉄道路線はすでに廃線となってしまったので(ちなみに、私の手元にある2006年版の台湾地図集[大輿出版社]には東港線がしっかり記載されている)、今はバスで行くしかない。しかし、東港のバスターミナルからさらに埠頭まで別のバスに乗り換えなければならず、時間的効率があまり良く...

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2012年5月 8日 (火)

台湾旅行②(5月4日、台北→高雄)

(承前)  タクシーを拾って、誠品書店信義旗艦店へ行く。書棚を一通りチェック。いま本を買うと荷物が重くなって移動の邪魔になるので、最終日にまた寄ることにした。私が行ったとき、日本人の団体が来ていた。誠品書店の関係者と思しき人が解説をしていたから、出版・書店関係の人たちだろうか。  市政府駅の地下街に入った。MRTで台北車站に出て、高速鉄道に乗り換え、高雄の玄関口となる左営まで行く。台北発17:30、左営着19:06.所要1時間半強。台湾の鉄道はほぼ時間通りに動く。 夕陽が沈みゆく頃合の風景を車窓からぼんやりと眺めていた。台北から新竹を過ぎるあたりまでは山がちの地区を通るのでトンネルが多い。台中...

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台湾旅行①(5月4日、台北)

 外に出てみると、雨があがったばかりの曇り空。機内アナウンスでは台北は雨天とのことだったが、初日から傘をささねばならない煩わしさを免れたのは精神衛生的に非常によろしい。最高気温は24度ほど。湿気まじりの風が頬を打つと、蒸し暑さの中でも多少の涼気に心地よさを感じる。  5月4日の9:40過ぎ、ほぼ定刻通りに成田を飛び立ったチャイナエアライン機は現地時間12時半頃、桃園国際空港に到着した。入国手続きをさっさと済ませてバスに乗り、松山空港まで直行した。国内線に乗り換える人のためのバス路線だが、私のお目当ては違う。松山空港近くにあるカフェ。  松山空港のバスターミナルで下車。他の人たちは空港の中、もし...

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2012年5月 2日 (水)

坂野徳隆『台湾 日月潭に消えた故郷──流浪の民サオと日本』

坂野徳隆『台湾 日月潭に消えた故郷──流浪の民サオと日本』(ウェッジ、2011年)  夕日の美しさで知られる台湾中部の景勝地、日月潭。私自身はいずれ行ってみたいと思いつつ、いまだその機会を得ないままだが、日本統治期から観光地として人気があった。戦後は蒋介石も別荘を構え、今は大陸からの観光客で賑わっているという。  本書は古老から話を聞き取りながら、日月潭に暮らす300人ほどの少数民族・サオ(邵)族の来歴をまとめ上げたノンフィクションである。日本統治期、国民党政権時代を通じてこの原住民族が翻弄されてきた経緯は、民族的覚醒が可能になった現在だからこそヴィヴィッドな問題意識を持って振り返ることができ...

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【映画】「少年と自転車」

「少年と自転車」  孤児院に入れられた少年、シリル。父と一緒に住んでいた団地に押しかけるが、すでに引越し済みで部屋はもぬけの殻。大事にしていた自転車もない。連れ戻された孤児院で悲嘆にくれていたところ、訪問者が来たと告げられる。団地で孤児院の職員ともみ合って診療所に逃げ込んだときにたまたま居合わせた美容師のサマンサが、シリルの自転車を持ってきてくれたのだ。しかし、それは父が売り払ったものだった。シリルはサマンサに週末だけの里親になってくれるよう頼み、一緒に父に会いに行くが、「もう会いに来るな」と言われてしまう。サマンサはシリルを自分の手に引き受けていこうと徐々に心を決め始めるが、その矢先、彼は不...

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2012年4月25日 (水)

神奈川近代文学館「中薗英助展─〈記録者〉の文学」

 先日、神奈川近代文学館「中薗英助展─〈記録者〉の文学」を見に行った(4月22日で終了)。遺族や関係者から提供された資料をもとに中薗の軌跡をたどるという趣旨で展示が行なわれていた。展示で関心を持った点をいくつかメモしておくと、 ・親友だった陸柏年の映った写真、及び上海で憲兵隊に殺されたことを知って中薗が驚いている瞬間の写真。陸柏年との出会いについては、彼が同人誌『燕京文学』に発表した「第一公演」(戦後に改稿され、「烙印」として『彷徨のとき:中薗英助・初期中国連作小説集』[批評社、1993年]に所収)に描かれているほか、中薗作品のあちこちで彼のことに触れている。 ・やはり友人の袁犀(戦後は李克異...

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2012年4月22日 (日)

内海愛子・村井吉敬『シネアスト許泳の「昭和」──植民地下で映画づくりに奔走した一朝鮮人の軌跡』『赤道下の朝鮮人叛乱』

 「大東亜共栄圏」という名目で日本が対外的侵略を活発にしていたあの時代、歴史のうねりに翻弄されるかのように異郷へたどり着き、複数の「人生」を生きた多くの人々がいた。内海愛子・村井吉敬『シネアスト許泳の「昭和」──植民地下で映画づくりに奔走した一朝鮮人の軌跡』(凱風社、1987年)が描き出すドクトル・フユンこと許泳もそうした一人である。  朝鮮半島に生まれた彼は日本へ渡り、日夏英太郎と名乗る(詩人の日夏耿之介にあこがれていたようだが、由来はよく分からない)。無声映画からトーキーへの移行期にあった映画界に飛び込み、実力勝負の業界で彼は脚本を書きながらチャンスを待つが、ある事件が運命を変えた。姫路城...

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2012年4月18日 (水)

和泉司『日本統治期台湾と帝国の〈文壇〉──〈文学懸賞〉がつくる〈日本語文学〉』

和泉司『日本統治期台湾と帝国の〈文壇〉──〈文学懸賞〉がつくる〈日本語文学〉』(ひつじ書房、2012年)  現代の我々にはなかなか実感のわかないことではあるが、1945年以前の日本は複数の民族を抱えた多元的な〈帝国〉として成り立っていた。しかし、民族的分布として多元的ではあっても、公的使用言語が国語=日本語にほぼ限定されていたことは、植民地化された地域の人々に多大な負担を強いる結果を当然ながらもたらしていた。そして、東京を軸として〈中央文壇〉が確立された状況下、植民地化された地域で文学を志す者たちは地域的文壇サークルに集いつつも、そこから中央をはるかに望めるだけで、乗りこえるべき壁は極めて高い...

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【映画】「台北カフェ・ストーリー」

「台北カフェ・ストーリー」  シネマート六本木で「台北カフェストーリー」を観た。映像のカットは工夫されているし、ストーリーのテンポも良い。そこに合わせて、憧れの桂綸鎂(グイ・ルンメイ)様が不機嫌そうにむくれたり、嬉しそうに飛び跳ねたり。彼女の豊かな表情を堪能できた、何とも至福な1時間20分。  原題は《第36個故事》、英題はTaipei Exchangesとなっている。タイトルで示された強調点がそれぞれ異なるのは面白いが、この3つを合わせるとストーリーの概要が浮かび上がってくる。  会社を辞めて念願のカフェをオープンさせた朵兒(ドゥアル:桂綸鎂)。しかし、手作り感覚のオシャレな店内には閑古鳥が...

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2012年4月14日 (土)

ニック・ノスティック『赤vs黄──タイのアイデンティティ・クライシス』

ニック・ノスティック(大野浩訳)『赤vs黄──タイのアイデンティティ・クライシス』(めこん、2012年)  2006年、当時のタックシン首相の不透明な株式取引への批判をきっかけに混乱が始まったタイの政局は、2011年の総選挙でタックシン派が勝利し妹のインラックが首相に就任したものの、依然として波乱要因がくすぶったままだ。タイ国王のシンボルである黄色のシャツを着込んだPAD(People's Alliance for Democracy:民主主義のための国民連合)と赤シャツを着込んだタックシン支持派のUDD(National United Front of Democracy again...

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スカルノについて何冊か

 後藤乾一・山﨑功『スカルノ──インドネシア「建国の父」と日本』(吉川弘文館、2001年)はインドネシアの独立闘争を中心にスカルノの生涯が描かれている。日本が軍政を敷いていた時期に彼は対日協力を行ったという事情があるため、戦中・戦後を通じた日本人との関係にもページの多くが割かれている。独立に際して西欧型民主主義を目指したハッタ、オランダとの協調の中で独立を模索したシャフリルとは異なり、スカルノは「民主主義と軍国主義のどちらを選ぶかと尋ねられれば民主主義を選ぶ。しかしながら、もしオランダ民主主義を選ぶか日本軍国主義を選ぶかと問われれば、日本軍国主義を選ぶ」(68ページ)と語っていたほど日本の近代...

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2012年4月 8日 (日)

ポール・コリアー『収奪の星──天然資源と貧困削減の経済学』

ポール・コリアー(村井章子訳)『収奪の星──天然資源と貧困削減の経済学』(みすず書房、2012年)  経済活動を行う以前に政治的・社会的構造が機能不全に陥っている国々では、援助をつぎ込んでも無駄だし、自立を促しても混乱を深めるばかりとなってしまう。貧困そのものが足かせとなって悲惨な状態から抜け出すことの出来ない「最底辺の10億人」──ポール・コリアーはアフリカを中心とした調査によってこうしたカテゴリーを対象化し、貧困からの脱却を阻害している問題点を提起してきた。本書はさらに資源の希少性をテーマとして、「最底辺の10億人」をめぐる課題は富裕国も含めたグローバルな責任にかかっていることを問いかけて...

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2012年4月 4日 (水)

キャロル・オフ『チョコレートの真実』

キャロル・オフ(北村陽子訳)『チョコレートの真実』(英治出版、2007年)  先進国では手軽な嗜好品として好まれるチョコレート。しかし、原材料であるカカオを栽培している西アフリカで、子供たちがこのチョコレートを味わうことはない。本書はカカオ生産にまつわる様々なエピソードを描いた歴史ノンフィクションであるが、そこからは甘くておいしいお菓子の裏に隠されてきた人間社会の苦い歴史が垣間見えてくる。  カカオはもともと中南米原産であり、チョコレートという言葉もアステカ人が使っていた「カカワトル」(カカオの水)が転訛したものと言われている。アステカ帝国では、搾取された膨大なカカオが富と権威の象徴として王や...

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最近の中国の小説を何冊か

 郭敬明(泉京鹿訳)『悲しみは逆流して河になる』(講談社、2011年)を読んだ。原題は《悲傷逆流成河》。郭敬明は中国の八〇后世代の作家としてカリスマ的人気を誇る。  リリカルな文体にしっかり練られた翻訳はとても上手なのだが、肝心のストーリーはありがちな学園もの。『セカチュー』系の青春小説、ラノベといった感じ。上海が舞台なのだが、描きこまれている心情描写を見ていると、固有名詞を入れ替えればそのまま日本のラノベといっても通用しそうな錯覚すら覚える。同様に八〇后世代の田原(泉京鹿訳)『水の彼方』(講談社、2009年)を読んだ時にも思ったが、日本人にも読みやすい。それだけ若年層では共通した感性が醸し出...

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2012年4月 1日 (日)

ローレンス・C・スミス『2050年の世界地図──迫りくるニュー・ノースの時代』

ローレンス・C・スミス(小林由香利訳)『2050年の世界地図──迫りくるニュー・ノースの時代』(NHK出版、2012年)  世界的な人口構造の変動(とりわけ先進国を中心に進展する高齢化や都市の過密化)、資源供給の逼迫、こうした問題に加えて地球全体の温暖化による影響も懸念される中、将来の見通しには楽観を許す余地はない。だが、何がしかでもプラスの要因を見出すことはできないものだろうか?   サブタイトルにある「ニュー・ノース」とは、北緯四五度線以北の環北極圏に位置するNORCs8カ国、すなわちロシア、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、アイスランド、グリーンランド(デンマーク)、カナダ、アラス...

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まだ読んでない本だけど

 アマゾンのおすすめメールが来て、こういう本が近々刊行予定であることを知った。Taner Akcam, The Young Turks' Crime Against Humanity: The Armenian Genocide and Ethnic Cleansing in the Ottoman Empire (Human Rights and Crimes Against Humanity) Princeton Univercity Press, 2012(「青年トルコ党」の人道に対する罪:オスマン帝国におけるアルメニア人ジェノサイドと民族浄化)→こちら。  1905年のいわゆる...

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